ミスサバナケット
1994-08-13
元気ですか。手紙と絵ハガキ届きました。どうもありがとう。 中に入っていたおばあちゃんの写真が、とても嬉しそうな顔をしていたので、さっそく机の前の壁に貼りました。嬉しそうにしている顔を見ていると、自分もなんだか嬉しくなってくるので不思議です。考えてみると、もの喜びするというか、嬉しがるのがうまい人というのはいると思います。そういう人には、つい何かしてあげたくなるものです。きっと心が素直なのでしょう。 私も人に何か親切にされた時、嬉しがろうとはするのですが、つい『どうも』の一言ですませたり、ぎこちなくなってしまうことが多々あります。 おばあちゃんもそうなのでしょうが(その割にあまり喜ばせてあげた記憶がないのは申し訳なく思っています)、今同じホテルで暮らしているチャンディーなども嬉しがることにとても素直な奴です。ついなにかとかまってしまいます。 こちらの人たちはと言うと、それはまあ個人差はありますが、物をもらったり誰かに何かしてもらうのが当然というような面があります。物を持っている人が施すのは当然という思想があるのかもしれません。基本的にはとても良い人たちで、人を誉めたり、おもてなしするのはとてもうまいのですが、たまにカチンと来ることもあります。 たとえば、煙草をもらうのは当然と思っている人もいて、いきなり私のところにやって来て「タバコ」とひとこと言う奴もいます。少し不快に思いながらも、怒ってもしょうがないので「50キープだよ」と冗談を言うと、本当に嬉しそうに笑うので、憎めなくなってしまいます。 先日、協力隊員としてパラグアイに行っているFさんという獣医さんから手紙が来ました。彼女とは、協力隊の二次試験で席が隣になり、試験が終わった後、うちの奥さんも呼び出し3人で飲んだことが一度あるきりです。彼女はその時の試験には落ちてしまい、もう一度試験を受けて合格したのです。小柄できれいな人だったという印象はありますが、もう顔も忘れてしまい、もう一度会ってもすぐには分からないかもしれません。でも、なぜかそれ以来手紙のやり取りだけはしていたのです。 その彼女も赴任後半年を過ぎ、色々と悩んでいるようでした。手紙を読んで驚いたのは、あまりにラオスと類似点が多いということです。手紙の住所をラオスに書き替えれば、そのまま信じてしまうかもしれません。 ラオスでもそうなのですが、とにかく現地の人はのんきで、競争心や向上心がないのにプライドだけは高いということが書かれていました。結局協力隊が行く国は、すべて同じような問題を持っているのかもしれません。 アフリカなどの国では、飢えて死ぬような人も多いのかもしれませんが、ここ東南アジアでは貧しさといっても貧しさの質が違うような気がします。アフリカと違って、本当に自然が豊かで、えり好みさえしなければ、飢えて死ぬ人は少ないと思います。木や草は、ほっておけば生えてくるのだという意識があるようです。こういう国では、食べるためにアクセク働くという思想は生まれにくいのかもしれません。 特に、ここラオスはのんびりしているように思えます。ベトナム人は稲を育てるが、タイ人は稲の育つのを見ているだけ、ラオ人は稲の育つ音を聞いているだけ、などというたとえ話さえあります。 とにかく何をするにも、日本とは時間の感覚が違うのは確かです。でも、協力隊員には2年間という限られた時間しかなく(任期延長ということもできますが)、つい焦り気味になってしまうのは、どこの国に行ったとしても同じなのかもしれません。 彼女の手紙に、言葉の壁ということについても書いてありました。それについては、私の場合あまり深く考えないようにしています。確かに、言葉が通じなくてもどかしい思いをすることは多々ありますが、そこは同じ人間同士、たとえ表現は貧しくても、お互いに分かり合おうと思う人には、なんとなく伝わるものだと信じています。 はっきり言って、1年以上過ぎた今でさえ、職場の人たちが言っていることの20%くらいの単語しか分からないのかもしれません。でも、なんとなく分かってしまうのです。もし、言葉が分かるという事だけでお互いが分かり合えるなら、日本人は日本人同士全員が仲良しということになり、何の問題もなくなることでしょう。 言葉がどうではなく、その人の性格が一番なのだと思います。たとえ同じ言葉を話しても、気の合わない人とは合わないし、気の合う人とは言葉がなくてもなんとなく分かり合えるものです。本当は、そういう気の合う人ともっと深く語り合うために、言葉が必要なのでしょうが、なかなかそこまで上達するのは難しいようです。 さて、この1週間もバタバタと過ぎていきました。私の場合、根が怠け者ですから、追い込まれないと何もやらないというところがあります。それでは何も進みませんので、任国外旅行前にやらなくてはいけないことを決めてやっているのです。『メコン』の編集と機材申請、それと辞書作りの三つです。三つの事を同時にやっているので、結構大変です。とにかく、字を書いたり、ワープロを打ったりすることが多いのです。 今週からは、辞書作りのために農林局のパソコンも使わせてもらっています。このパソコンは、Oさんが機材申請して5台入れたもので、そのパソコンの置いてある部屋だけはクーラー付、まるで日本の事務所のようです。今までパソコンなど使ったことがなかったのですが、Oさんに教えてもらって使い始めました。日本にいた時には、必要とも思わなかったのに、ラオスで始めてパソコンに触れているのですから不思議なものです。 ラオスに来てから本当にたくさんの手紙を書いています。今までの何年分かの字を書いているような気がします。書類を書くために、先輩隊員が置いていってくれたワープロも使っていますし、パソコンは始めたし、暇のときにはゲームボーイと、目に悪いことばかりやっているので、少し視力が落ちたような気もします。 今日ももう少しやることがあるので、今回はこれで終わりにします。 それではまた、お元気で。 |