宴会の用意は肉の解体から

1994-06-24

 元気ですか。今月は、完全に一日中休みという日はありませんでした。毎日続けて往診している犬が何頭かいたので、つい日曜も行くことになってしまったのです。

 昨日サバナケットに旅行で立ち寄ったフランス人夫妻と、食事をしました。Cちゃんと4人でタイ風スキヤキを食べに行ったのです。彼らは30代くらいですが、仕事を休んでもう10ヵ月もリュックを担いで旅行しており、アフリカ、インドなどを回り、ラオスにやってきたのだそうです。フランス人は誰でも年に5週間は休みがあり、仕事によっては何年間か働くと、こうして長い休みが取れるのだと言っていました。

 ラオスに来てまで休みの無い私は、いったい何なのでしょうか。最もこの2年間自体が休みみたいなものだといわれれば、一言もありませんが…。

 実際、往診が多いといっても、せいぜい2・3時間もあれば終わってしまいますし、それを理由に最近は重役出勤、事務所にはほとんどおらず、往診だけといった状態です、ラオ人はもちろん日曜に働いたりしませんし、ふだんの日も他に仕事があったりして、一人で回ることも多いのです。ふと虚しくなってしまいます。

 何か技術を伝えるとか、教える場合、私達協力隊員の立場というのは非常にあやふやで、それだけに難しい面があるようです。職場の人達にとって私は上役では無く、何の命令権もありません。それなのにたまに偉そうな事は言うし、周りの人達も本当はどう接して良いのか分からないのかもしれません。

 AITのニックのようにお金を持ってきて、下に付く人の給料まで払うというのなら立場というのもはっきりします。(うわさでは、日本円にして2000万円も予算があるそうです。そのためうちの課は、エアコン付きの所長室は増築するは、テレビ、ビデオはもちろん、コピーやパソコンまで購入する始末です)そんな風にきちんと上下関係があったほうが、何かを教える場合には良いのかななどとも思ってしまいます。

 たとえばカンタボンとの関係です。こちらに来た当初はたいして仕事もなく、奴とバカ話をする対等の立場でいられたのですが、今のように仕事をするようになると、どうしてもこちらが教える立場になる事が多くなります。

 他のドンチャイやスパサイは大人なので、私が何か教えようとすると素直に聞いてくれます。でもカンタボンの場合、難しい話になるとスーといなくなってしまいます。勉強が嫌いというのもあるのでしょうが、前は冗談ばかり言ってた奴が偉そうに…みたいな感情があるのではないかと思います。

 一緒に往診に行っても「お前は犬は治せるけど、牛や豚は殺しちゃうんだね」なんて言うので、「この野郎生意気な」と思いつつ、半分は当たっているかもしれないと思ってしまう私なのです。

 でもその半面上下関係がないため、仲間として見てくれているのかなとも思います。たとえば誰かの家でパーティーをやる時、私やチャンディーは招かれますが、イギリス人のニックや、バングラディッシュ人のカセムさんが招かれる事はほとんどありません。ニックの奥さんが来た時にも、うちの奥さんが来た時のようなバーシーはありませんでした。

 そう考えると、協力隊のように何の地位も無く働くというほうが良いのかなとも思えます。でもまあ、どちらも一長一短があるようです。

 色々と悩んでいるようですが、それを理由に怠けているというのが実情です。やはり休みが無いというのは良くないようです。本当は色々とやりたいことがあるのに、日々の仕事だけで終わってしまいます。ある程度余裕が無いと、まとまった事できないようです。

 専門用語集にしても、なんとなくそのままにしていますし、農業学校に教えに行く話も、あっという間に学期末になってしまいそのままです。スパサイを日本に送る話にしても、どうやら無理なようです。

 この前彼と話したのですが、自分がいなくなったらこの課で仕事ができる人はいなくなるし、奥さんは妊娠中だし、何しろ出張がちで日本語を勉強する間が無いので、日本に行くのはあきらめると言っていました。

 とにかくこの国は人材というものが乏しく、少し仕事ができる人がいると、その人だけに仕事が集中してしまいます。それでも給料は一緒なのですから大変です。ちなみにこの春から、全員の給料がいきなり倍になったのですが、それでもスパサイの月給は45ドルくらい、所長クラスでも70〜80ドルくらいです。

 残念な事ですが、スパサイを日本に送る件についてはあきらめる事にしました。ほかの人を送っても、あまり意味がなさそうですからこの制度を利用する事自体やめました。でもスパサイは、これからも日本語を勉強すると言っています。日本語で書かれた獣医の本が読めるようになるから、と言うのです。なかなか熱心な奴です。こういう奴が損をすると言うのは、やはり今のラオスの体制に少し問題があるのかもしれません。

 革命で、本当に優秀な奴は外国に亡命し、今ラオスにいるのはカスばかりだなどと過激な事を言う人もいますが、確かにそういう面もあります。でもその半面、だからこそのんびりして良い国だなどと、私には思えてしまうのです。どうなのでしょうか。

 まあ結論の出る話ではありませんから、これもまた一長一短という事で片付けて、今回の手紙は終わる事にします。

 それではまた、お元気で。

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