コーヒー屋のシオパイ

1994-02-25

 元気ですか。こちらは毎日暑く、今となれば寒かった12月がなつかしい気がします。県がクーラーをつけてくれるという話は、話ばかりでなかなか実現しません。一番暑い4月までに付けてくれれば良いのですが、この分では一番暑い時期を過ぎてから付けてくれるのではないかと心配しています。

 仕事のほうは、以前にも書いたように、完全に犬のお医者さんです。市場に行っても、知らない人に犬の相談をされたりします。最近知ったのですがこの町にも、中国人会やベトナム人会というのがあり、どうやらそういう会を通してうわさが伝わっているようなのです。

 毎日平均5・6頭ですから、日本で働いていた時に比べればわずかなのですが、全部往診ですし、かなり状態が悪くなってからしか言いに来ませんから大変です。治るものは2・3回の治療で簡単に治ってしまうのですが、ちょっと長引くような病気だと、薬が思うよう手に入らない事もあり、助からないことも多いのです。

 コーヒー屋のシオパイも、先週の日曜日に死んでしまいました。でもそこのおばさんは(このおばさんは中国人ですが、うちの奥さんの親戚のおばさんに良く似ています。豪快に笑いよく喋る、陽気な伯母さんです)、シオパイが苦しまずに眠るように死んだことで感謝してくれ、「シオパイが死んだからといって、遊びに来なくなったら承知しないよ」と言ってくれました。

 今日、町でそのコーヒー屋の娘さんに会ったら「お母さんが店で待っているからすぐ来て」と言われました。行ってみると、注射器と薬を渡されました。以前、「シオパイに使っている薬はサバナケットには売っていないので、ムクダハンに行く事があったら買って来てよ」と言ったのを憶えていて、わざわざ買って来てくれたのです。「奥さんがサバナケットに来たらつれて来るんだよ」とも言われました。

 思い入れのある犬ほど、なぜか死んでしまいます。

 中国人学校の向かいにある雑貨屋のマルチーズ、プンプイも一昨日死んでしまいました。最初は血便だったのですが、だんだんおかしくなり、最後の日にはまるで破傷風のように後ろに弓なりになる発作が10秒程続き、ぴたりと収まると言う症状でした。ジステンパーかあるいは、寄生虫が脳に迷入したのではないかと思います。なかなか状態が良くならず、虫下しの薬をやるきっかけがつかめなかった事が、今となっては悔やまれます。

 最後の日、雑貨屋のお兄さんが夜の9時頃、うちのホテルのすぐそばにあるホテルの1階に出来たビリヤード場で遊んでいた私を迎えに来ました。行ってみると、例の発作です。痙攣を止める薬を買いに行かせて与えると、痙攣は収まりましたが、その夜1時くらいに死んでしまったそうです。このお兄さんも、熱心に診てくれたと感謝してくれ、タバコを1カートンもくれました。言葉はうまく通じなくても、こちらがやれるだけの事をやっていれば、分かってくれるのかもしれません。

 そんなふうに、この1週間は、日曜日も休むことなく過ぎていきました。夜は夜で、ワープロ(この前ヴィエンチャンに行った時に、帰国する隊員からもらいました)で、狂犬病のレポートの英訳をまとめていました。うちの課に来たイギリス人のニックに手直しをしてもらったのですが、さすが本場のイギリス人、私のでたらめな英語をきれいな英語にしてくれました。それをワープロで打ち直していたのですが、慣れないせいもあって結構時間が掛かり、土・日・月の3日間は夜の2・3時までやり、その後も手を入れて、やっと今日完成しました。ヴィエンチャンに行ったら、大使館やワクチン工場に届けるつもりです。

 仕事ばかりやっていたようですが、その間にも、麻雀をやり、ビリヤードをやり、お酒も飲んでいたのですから、実に精力的な1週間でした。

 明後日(27日)にはヴィエンチャンに行く事にしました。うちの奥さんが来るのは3日ですから早過ぎるようですが、1日に事務所のHさんが帰国するので見送りもしたいし、うちの奥さんが来てからの旅行のレセパセ(国内移動許可書)や、飛行機の予約、ホテルの予約のために早めに行く事にしました。

 うちの課の所長と相談して、ヴィエンチャンの獣医課から顕微鏡も借りて来る事にしました。始めはまたJOCVに機材申請をして、援助してもらうつもりで所長の所に相談に行ったのですが、「申請しても来るまで時間が掛かるから、ヴィエンチャンから借りてきたほうが良いだろう」と、非常にまともなことを言うのです。

 他の隊員の話で、「職場の所長が何でも欲しがり、すぐにJOCVに頼んでくれと言われるので困る」と聞いていましたから、うちの所長を見直してしまいました。検体の染色のために、流しと水道も何とかしようと言っていました。思ったよりも考えのしっかりした良い人だったようです。

 幸いと言ってはいけないのですが、気になるような症状の犬は全部死亡してしまい、後は軽い症状のものばかり。安心して休む事が出来ます。

 これからの予定は、3日にうちの奥さんが来て、4・5・6日はルアンパパーン旅行。8日にサバナケットに来て13日にヴィエンチャン、16日に帰国を見送り18日にサバナケットに戻ります。その間バタバタするので、ハガキくらいになるかもしれませんが、落ち着いたらまた手紙を書きます。

 それではまた、お元気で。

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