郊外の市場。手前にヤマネコらしき物があります。

1993-12-02

 元気ですか。昨日佑さんからの手紙と本が届きました。一応はがきを出しましたがこちらの手紙が先に着くかもしれませんのでお礼を言っておきます。ありがとう。

 前の手紙を書いたばかりなのですが明後日から急に出張で1週間ビエンチャンに行くことになりバタバタする前に手紙を書こうと思い書き出しました。

 ビエンチャンには犬の頭を持っていくのです。狂犬病かどうか検査するためです。こちらでは検査できないのですがビエンチャンでならできるそうなのです。日本では今狂犬病はありませんからもちろん私も見た事がありません。検査の方法は知っていても実際どうやるか知りませんので見学に行く事にしたのです。

 日本でなら1日とかからずに検査できると思うのですが1週間もかかるというので私も1週間滞在する事にしました。

 あちらでの検査を見学するという仕事もありますしちょうどSさんも任国外旅行から帰ってくる時期です。8日にはビエンチャンの看護婦さんが帰国しますから送別会などもあることでしょう。そう退屈せずにすみそうです。

 問題の犬は一昨日2人の人に噛みつき昨日の朝繋いでいた紐に絡まって死んでいたそうです。食欲もあったしよだれもそんなに出ていなかったというので狂犬病の可能性は少ないと思うのですが一応検査する事になったのです。噛みつかれた人は病院でワクチン注射を受けたそうです。

 検査するから頭を持って来るように言ったら今朝見事に皮まではいだ頭だけを持ってきました。頭の他はどうしたのかと聞いたら食べてしまったと言っていました。まったくすごい話です。大丈夫なのでしょうか。狂犬病の犬を食べて良いかどうかなんて日本の大学で習うはずがありません。でもまあ生で食べたわけではなさそうなので多分大丈夫なのでしょう。

 ラオスでは都会の人は食べませんが少し田舎に行くと犬を食べます。値段は結構高く牛の半分くらいなのだそうです。しかし犬を食べるのは田舎者の証拠みたいな感覚がありシティーボーイ()のカンタボンに、犬を食べた事があるかと聞くととても嫌そうな顔をして、「とんでもない」と言っていました。(実は良く食べている事が、後になって判明しました)

 K君は郊外にある養殖所が仕事場で、昼はそこで皆と食べています。そのため、犬は何度も食べた事があるといっていました。この前、猫も食べたと言っていましたから、どちらが田舎者なのか分かりませんね。ちなみに、犬はとてもおいしいけど、猫はあまりおいしくないそうです。猫を食べると結婚できないぞと脅かされたそうです。

K君はちゃんと結婚できました。単なる迷信だったようです》

 そういえば、昔パクセーに行き、田舎のコーヒー屋さんで休憩した時、M君はネズミの姿焼き(開いて串に刺したもの)を食べていましたっけ。

 犬にしろ、猫にしろ、ネズミにしろ、私はとても食べる気にはなれません。たとえおいしくても、姿を想像しただけで食欲がなくなってしまいます。かなり想像力を押さえ込まないと、食べられないのではないでしょうか。

 こちらの人達がおやつ代わりに良く食べる、カイルークというものにも、ちょっと手が出ません。カイルークというのは、ヒヨコになりかけた卵を茹でた物なのです。この卵の殻の上を少し割り、そこからスプーンですくって食べるのですが、ちょっと横から中を覗く気にもなれません。Mさんなどは、平気で食べていましたが、味は普通のゆで卵よりおいしいそうです。

 こう書いてみると、ラオ人というのは、変な物ばかり食べていると思うかもしれませんが、日本人だってスズメの姿焼きとか(私はこれもだめですが)、ぴくぴく動いている魚を生で食べたりしているのですから、人のことは言えませんよね。

 食は文化とも言いますから、色々な物を食べる民族の方が、文化的には深いのかもしれません。きっと、○○を食べるから残酷だなんて、言う人のほうがおかしいのだと思います。

 クジラを食べるから日本人は残酷だと言っている人達がいますよね、あれはちょっと人種差別だと思いませんか。実は、人種差別として言っているならまだ分かるのです。でも、本当に残酷だなどと思いこんでいるのだとしたら、そちらの方が不思議です。

 動物にも植物にも生命があり、その生命を奪う事で、人間は生きているのです。いったいあの人達は、何を食べて生きているのでしょうか。「私は菜食主義者だ。心が通じ合う高等な動物であるクジラを食べるなんて…」という理屈も、おかしなものです。植物だって、話しかけてやった方が、成長が早いと言いますからね。

 しょせん人間は、他の生き物の生命を食べて生きるという業(カルマ)を背負って生まれてきたものなのです。それに対して素直になるか、ことさら隠そうとするかの違いなのだと思います。

 そういえば、ここの人達は、虫も平気で食べるのです。バッタは勿論、アリ、カブトムシ。サソリを食べていた人もいました。道端にいたカエルを、そのまま食べた人までいたのですから、たいしたものです。食べるという事に、本当に素直な人達です。タイで捨てたニワトリの足の先もここでは焼いて売っています。牛でも豚でもニワトリでも頭の先から尾っぽまで、余さず食べてしまうのですから無駄はありません。

 私自身はどうかというと、あまり食べるということに素直になれないようです。せいぜい焼いたカエルの足くらいまでしか食べられません。やはり小さい頃からの食習慣を変えるというのは、なかなか大変なようです。

 ところで佑さんの手紙に英語のテープはどうしますかとありましたが、あまり上級向けの物があっても活用できないと思いますので、無理には必要ありません。そう伝えておいてください。

 そういえば、今度うちの職場にイギリス人がやってきました。AITというタイにある国連大学からの人で、仕事というか研究課題は魚の養殖です。タイに2年いたのでタイ語はペラペラで、サバナケットに2年住む予定だそうです。職場の方でも、彼を受け入れるため、部屋を増築工事中です。

 大きな四輪駆動の車を持ちこんできたので、仲良くなったら便利かもしれません。でも、AITの資金の70%は日本が出しているというウワサを考えると、少し複雑な心境です。こちらは月に275ドルでバイクも50CCまでなのに、あちらは新しく部屋まで作ってもらって、車までなんて、ついひがみ根性が…。ラオ人にしても、「新しくイギリスからボランティアが来た。日本と違って、イギリスは車まで持ってきた」なんて思っている人が大半なのではないでしょうか。

 しかし、今度から英語で分からない事があったときにすぐ聞けるので助かります。まだ挨拶くらいしかしていませんが、良い人だといいのですが。彼はニックという名前です。これからの手紙に名前が登場するかもしれませんが、よく出るのなら仲良くなった証拠です。

 手紙を書いている間に日付は変わっており、今日は12月2日。ラオスの数少ない祭日、建国記念日です。街角には国旗と共産党の赤い旗が目立ちます。久しぶりに扇風機を回すような暑い日です。

 ビエンチャンには明日行きます。また電話できるのではないかと思います。では、お元気で。

追伸:ビエンチャンの事務所が移転になり、電話番号が変わりました。日本からかける場合は、001−21−414×××です。

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