ベトナム料理屋での夕食

1993-08-11

 元気ですか。こちらはここ何日間か比較的涼しく、過ごし易い日が続いています。日本では良い天気というと晴天の事ですが、こちらの人が言う良い天気は、曇っていてあまり暑くない日の事です。そんな日が続いています。国によって良い天気という感覚でさえ違うのですね。

 先日もヴィエンチャンのレストランで魚を注文する時に、こんな事がありました。どれくらいの大きさの魚が出てくるか聞くと、指で5cmくらいの大きさを示しました。「なんだ小魚なんだ」と思い、少し多めに注文しました。出てきてびっくり。30cm近くある大きな魚だったのです。こちらでは魚の大きさを長さではなく、幅で示すようです。食べきれなくて困ってしまいました。

 サバナケットには、川魚だけでなく海の魚もあります。市場に行くと、たまにエビ、カニ、イカまで売っています。ヴィエンチャンでは見かけなかったような気がします。やはりサワンの方が少しでも海に近いからなのでしょうか。昨日いつも行くベトナム屋で出てきた魚も、あれはどう見てもアジでした。

 このベトナム料理屋は、大変おいしくて安く、おばさんが日本人びいきなので(日本人は何を出しても、文句も言わず全部食べてくれるからと言っていました)、2日に1度は夕飯に通っています。メニューなどなく、作っている料理もおばさんのその日の気分次第ですが、結構バラエティーに富んでいます。もちろん店の前に並べられた鍋を覗いて好きなものを注文しても良いのですが、席に座っただけで、おばさんが選んだその日のお勧め料理3品くらいと、スープと、ご飯を持ってきてくれます。これで1人800キープ(160円)ですから、日本では考えられない値段です。

 2人で行くとこれくらいですが(なんとなく夕飯はS君と2人で行く習慣になっています)、3人で行くと、品数や量が増えます。ところが4人で行っても量が少し増える程度なので、3人で行くのが一番お得なようです。

 たまにカエルとか、アヒルの頭とか、ニワトリの足爪のような少し食べなれないものが出てきますが、こういう時には必ずおばさんが「これ、食べられるか」と聞いてくれます。カエルは鶏肉のようでおいしかったのですが、アヒルの頭と、ニワトリの足爪はちょっと食べられそうもなかったので取り替えてもらいました。一度これはだめだと言っておけばちゃんと覚えていて、次からは違う料理を出してくれます。味付けもそう辛過ぎるものはなく、日本人好みの味です。全体的には煮物のようなものが多いのですが、から揚げや、テンプラ(かき揚げのような物。大変おいしいのですが、たまにしか作らないまぼろしの料理です)、日本の漬物のようなものもあります。

 ここまで書いた時、死にそうな子猫が連れてこられました。(職場で手紙を書いていたのです。)ここの職員の飼っているネコで、まだ4ヶ月。もう3日も何も食べていないそうです。鼻水を出していたと言うから、風邪をこじらせたのかもしれません。脱水がひどく、血糖値もかなり下がっているようです。ここの人達は犬やネコの治療については、ほとんど何も知りません。私が何とかするしかありません。注射器も牛や水牛に使うような物ばかり。針も太い物しかありません。

 聴診すると、心臓は何とか動いていますが、肺に異常音。肺炎も起こしているようです。抗生物質をと思いましたが、ここにある薬は粉状で、1度溶かすと牛1頭分…。使えません。ビタミン剤…これも大きすぎます。とりあえず点滴…。だめです、生理食塩水さえありません。

 そうこうしているうちに子猫は低血統による昏睡状態に陥り、横になってしまいました。大変だと思っているのは私だけ。周りの人達は、のんきなものです。何事が起こってもボーペンニャン(気にしない)。たとえこの子猫が死んでも、たいした事ではないのでしょう。こういう時ばかりは、回りののんきさが腹立たしく感じられます。

 子猫を連れて来た女の子(職員の子供)だけは、心配そうに見ています。この子のためにも何とかしなくては…。今自分ができる事はないのか考えました。生理食塩水はないけど蒸留水はあったな…。静脈注射は無理なので皮下注射で…。さっそく、ブルガリア帰りの獣医スパサイに指示します。そういえばグルコースがあった。あれをカテーテルで胃に入れれば…。だめだカテーテルがない。何か役に立つかもしれないと思って日本から翼状針を持ってきたんだ。あのチューブを使えば…。

 さっそくカンタボンのバイクの後ろに乗ってセンサバイへ。日本から持ってきた注射器、薬を引っつかみ再びバイクの後へ。ところが、カンタボンの奴のんきなもので、写真屋に用事があると言って途中で写真屋に寄るのです。

 帰ってみると子猫はまだ何とか生きています。飼主には薬屋に行って薬を買って来いと言ったのですが、指定した薬はなかったそうです。(こちらでは、人間の病院でも病院には薬は置いておらず、処方箋を書いてもらって薬を買いに行き、再びそれを持って行き病院で注射してもらうシステムです。)しかたありません。カテーテルを作り、胃の中にグルコースを入れてやり、しばらくすると少し動き始めました。部屋から持ってきた抗生物質とビタミン剤をカッターで切り、飲ませます。これで終わり。後は運を天に任すしかないでしょう。ちょうど昼休みです。(昼休みの間、事務所は施錠されてしまいます。)

 昼休みが終わって職場に行くと、子猫の飼主がやって来て言いました。「子猫はあの後、2時間位して死んだ…」

 「もと早く連れて来れば…」と私が言うと、何度もうなずいていました。残念です。本当にもう少し早く連れて来れば助かっていたかもしれません。しかし、今この時点で犬猫の病気を診られる獣医は、この県では私一人で(考えてみるとそうなんです)、他に連れて行くというわけにも行かなかったのですし、その私も現時点でできる最善の事をしたのだと信じる事にしました。治療した動物に死なれるのは、何度経験しても悔しいものです。

 なんだかこんな話をした後、また食べ物の話に戻るのもおかしなものですし、こんな事があったので手紙を書き続ける気力がうせてしまいました。非常に中途半端かもしれませんが、このへんでこの手紙は終わりにしたいと思います。

 これが、子猫が助かったよという話か、こんな治療をしたよという話だけなら良かったのですが、早く結果が出過ぎてしまいました。

 次回はまた気分も新たに手紙を書きますので、今回はこのへんで。

お元気で。

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