職場の宴会(笑ってるのがカンタボン)

1993-06-22

 元気ですか。先週来た森田のおばさんから手紙に、母が入院したと書いてあったので驚いてしまいましたが、読み進めるともう退院し、リハビリのせいか入院前より元気そうとの事、安心しました。

 しかし、すこし調子が良いとすぐ無理をしてまた具合が悪くなる事が多いので、くれぐれも無理をせず生活するようにしてください。

 このように心配してますなどと書くと、また広子とかに「お兄ちゃんはそうやっていつも口でばかり良い事を言って、良いとこばかりさらっていくんだから」などと言われそうなのであまり書きませんが、連絡がない限り2年間は何とか元気にやっているものだと勝手に思いこんで、私は私なりにこちらでがんばることにします。

 私はこちらに来てすぐに熱を出したものの、完全に復調し絶好調です。生活の方もなんとなくリズムのようなものができてきて、特に変わった事もなく日々が過ぎるようになってきました。そうなると困るのは、手紙に書くことがなくなってくる事です。

 先週の日曜日も、シーラーンに行き皇太子の結婚式をテレビで見た後(センサバイでは誰もテレビを持っていません。シーランには庭にちょっとしゃれたラウンジがあり、そこでテレビを見る事ができます)、プールに行き、夜は麻雀をしたくらいで、特別な所に行く事はありませんでした。

 そうなるとどうしても話題は職場関係になってしまいます。

 先週の水曜日に、やっと所長が出張から帰ってきました。とても人の良さそうなおじさんで、何をやっているかと聞くので、専門用語集を作っているのだと答えると、ノートをペラペラとめくり、2・3間違っているところを直してくれました。「もしわからないところがあったらいつでも聞きに来てくれ。そのうち、一緒に田舎に注射しに行こう」みたいな事を言って去っていきました。

 その後も何回か同じようなことがありましたが、他の隊員が言われて悩んでいるような、「これとこれがないんだが、日本が買ってくれないか」みたいな事は言われていません。もっともまだ帰ってきてから1週間も経っていないからなのかもしれませんが…。

 他の隊員の話を聞くと、本当に働きに来てほしいと言うよりも、背後にある日本のお金目当てで隊員を要請するような職場も多いようです。それはそうですよね。わざわざ外国人に来てもらわなくても、それはそれなりに(本当にそれなりにかもしれませんが)仕事は回っていくのですから。

 私の場合、「この用語集作りは自分にしかできないのだ。英語とラオ語と日本語がわかる獣医は、少なくともこのサバナケットには私1人なのだ」と勝手に思いこみ、何とか形になるまでがんばってみようと思っています。

 と、こう書くと職場で毎日こつこつと用語集作りをやっているかのようですが、なかなかそうはいきません。誰かが来ると日本の話をしたり、その他の雑談に付き合ってしまいますし、雑談だけで一日が終わったりもします。こちらの人達は本当に話好きで、なかなか一人でほっておいてくれません。

 前に手紙に書いたカンタボン君も相変わらずですが、同じ部屋の獣医師のクーケオさんがヴィエンチャンでの学会から帰って来たので、以前ほどベタベタと寄って来れず少し寂しそうです。それでも隙を見ては寄って来ますが、クーケオさんがいない時のように一日中そばにいる事がなくなり、正直言ってホッとしています。

 クーケオさんと言えば、彼の行ってきた学会は東南アジア各国の獣医が集まったものだったらしく、そうなると当然交わされる会話は全て英語だったそうです。彼は38才。彼の子供の頃ラオスはフランスの統治下だったので、フランス語は分かりますが英語はまったく話せません。結局、一週間の学会に出てもほとんど分からず、英語の必要性を痛感して帰ってきたのです。

 協力隊で誰か英語のできる人はいないか。良い先生はいないかと相談されてしまいました。相談されると根がお節介なのでほってもおけず、他の隊員に聞いてみましたが、隊員で英語を教えられるほどうまい人はいませんし、日本人でさえ9人しか住んでいない町に外国人教師などいるわけもなく、ラオ人で発音のしっかりした教師がいる事はいるけどやたら高い授業料を取るとの事。

 ヴィエンチャンでなら今英語ブームなので教室も多く、良い先生もいるのでしょうが、サバナケットではまだ英語教室も少なく、先生もラオ人で、ラオ人特有のザジズゼゾが発音できない英語を教えているとの事でした。やはり何事も最初が大切で、はじめに変な発音を覚えない方が良いと思ったのですが、良い先生はいないようです。

 テキストの方も、ラオ語−英語となると、サバナケットで手に入るものは少なく、良いものはないようです。イギリスのBBCが6冊組みのテキストとテープを出しているそうですが、かなり高価なものなので、持っている人がいたらダビングしたいと思い探しています。

 どうりで、職場で何人か英語ができる人がいても発音が怪しいなと思っていたら、日本のようにやろうと思いついて少しお金があればなんでも手に入るという状況ではないのですね。

 市場に行っても一見色々な店があり、色々なものが手に入りそうな気がしますが、結局売っているものの種類は少なく選択の幅がすくないのと同じなのです。

 もうこうなったら、良いテキストが手に入るまで私が何とかするしかないと思い、日本での授業で使ったラオ語のテキストの一部を英訳してあげました。やってみて驚いたのは、私でもスラスラと訳せてしまった事です。結局私の今できるラオ語も、まだ英語にしたら中学校の初期程度だったのですね。自分ではかなり話せるようになった気がしていたのに、少しがっかりしています。

 私の訳したテキストを所長に直してもらい(所長はかなり英語ができるようです)、とりあえず私が読み方を教える事になってしまいました。カンタボンには日本語を教えなくてはいけませんし(彼の夢は日本に行って日本人のお嫁さんを見つける事なのだそうです。可能かどうかは別にして、それはそれでまあ良いでしょう)、用語集は作らなくてはいけませんし、忙しくなってきました。本当はどうしてもやらなくてはいけない事は何もないのに、自分で忙しくしてしまっています。

 あまり書くことがないと言いながら、結構長い手紙になってしまいました。

 今思いついたのですが、親戚やいとこで使わなくなった英語のテキストやテープを持っている人がいたら、こちらに送ってもらえないでしょうか。もし、あればの話ですが…。

 また手紙書きます。お元気で。

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