島田 今までお会いになった 患者さんで、記憶に残る…。 稲垣 記憶に残る…。そりゃ、色々ありますけど…。 島田 笑えるでもいいんですけど…。 変わった間者さんていませんでしたか。 稲垣 そう言われるとですね…。 島田 キリン? 稲垣 いや、キリンはないですけど、 カブトムシっていうのはありましたね。 島田 カブトムシ!看るんですか。 稲垣 それがですね。うちではなくて、 昔代診していた病院でのことなんですが、 そのときに若い女の人が、まあきれいな人で… まあきれいでもどうでもいいんですが…。 島田 まあそうですね。 稲垣 そのきれいな人が、猫の籠を持って、 片手に小さな箱を持ってきたんです。 パッと見たら子猫が入っているんで、 当然そっちを看ると思ったんです。 「ハイどうぞ」って言ったら、 診察台の上に載せたのは 小さな箱のほうなんですよ。 それで、パッとふたを開けたら、 カブトムシなんだけど、 幼虫からちょうど抜け替わる時で フニャフニャの時ってあるでしょ、 その角が折れて、体液が流れ出しているわけ。 島田 あら。 稲垣 「なんとかしてください」って言うんだけど…。 で、その人も可笑しくて、 「あの、そっちの猫じゃないんでか」って言ったら、 「これは加害者なんです」って…。 島田 ハハハ。 稲垣 「一応連れて来ました」って…。 結局、その猫がイタズラして 角を折っちゃったらしいんですけど…。 島田 はーん。責任とるためにちゃんと連れて来たって…。 稲垣 「幼虫の時から飼っているから、私としては このカブトムシのほうが付き合いが長い」って…。 「何とかしてください」って言われたんですけど、 ちゃんと固まってからならね、 それこそ接着剤で着けても くっつくんじゃないかと思うんですが、 「これじゃ無理です」って言って、 ぱっと子猫のほうを見たら 風邪をひいているんですよ。 「あ、こっちは治せます」って言って…。 島田 ハハハ。いろんな出会いがありますね。 でも、まじめに答えなくちゃいけないわけですよね。 今聞くとすごく面白いんだけど、 その方はまじめにね…。 稲垣 そうですよ。真剣ですから。 島田 そうですよね。 稲垣 そう言えばこの間。 今度はね、うちの病院でのことなんですけどね。 小学校の1年生くらいの子が3人入ってきて、 何もって来たのかなと思って…、 何か握っているんですよ。 「これ看て下さい」って言って、パッと開けたら、 1cmくらいのアオガエルなんですよ。 島田 それをどうしろって。 稲垣 「どうしたの」って言ったら、 握って来たのでぐったりしてるんですよ。 島田 おまえ達が悪いんだろって…。 稲垣 そうじゃなくて。「どうしたの」って言ったら、 足のところを広げて 「ここが赤いんです」って言うんですよ。 そう言われれば擦り剥いているような気もするし…。 「じゃあ分かった」って言って中に入れて、 ヨードチンキをちょっと塗って、 「ハイいいよ。じゃあ、これちゃんと飼ってやってね」 って言って返したんですよ。 うちの待合室って、キャンディーが置いてあるんですよ。 で、うちの看護婦さんが、「君達偉かったから、 キャンディ持って行っていいよ」って言ったんですよ。 島田 ふんふん。 稲垣 そしたらね。 一人の子が「妹の分もいいですか」って言うんですよ。 島田 しっかりしてる! 稲垣 そうしたらもう一人の子が 「お兄ちゃんの分もいいですか」って…。 そうしたらもう一人の子が 「おまえお兄ちゃんいないだろ」って…。 ハハハハ・…。 島田 ハハハ。でもなんだか良い話のような気がします。 稲垣 帰ったあと見てみたら、 キャンディーが半分くらいになっているんですよ。 兄弟の多い子達だったんですね。 島田 ハハハ。でも何はともあれ、 その動物を大切にする気持ちは 大切にしたいですよね。 稲垣 そうですね。
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2001-06-01