女の子達とコネコ

 今日の診療時間の出来事です。

 うちの病院の前で、4人の小学生くらいの女の子達がダンボール箱を囲んで相談していました。嫌な予感がしました。多分捨て猫です。女の子達は、病院に入ろうかどうしようか迷っているようでした。

 こちらから声をかける事にしました。

「どうしたの?」

「捨て猫なんです。そこの公園に捨ててあって…」

 箱の中を見ると、1ヶ月くらいのコネコが1匹入っていました。「このまま預かって里親を探すか…」という考えも、頭をよぎりました。

でもここですぐ預かってしまうと、女の子達には、『今日、公園で捨て猫を拾いました。動物病院に連れて行きました。とても良い事をしました』という記憶しか残りません。

「捨て猫をかわいそうだと思う気持ちは大切な事だと思うよ。でもね、捨て猫を拾うって事は、拾った人に責任が生まれる事なんだよ。君達が拾わなければ、次に拾った人が飼ってくれるかもしれないでしょ。ひょっとすると、子猫にとってのチャンスをつぶす事になるかもしれないんだよ」

 女の子達は、真剣な表情で聞いています。

「一番良いのは、誰かのうちで預かって、もらってくれる人を探す事なんだけど…」

 皆一斉に首を横に振ります。

「じゃあ今日は天気も良くて暖かいし、子猫も元気そうだから、一応もとの所に戻して、君達はポスターを作るとか、知ってる人に聞いてみるとか、もらってくれる人を探してみたらどうかな。それでもどうしようもなかったら、また相談に来るんだよ」

「はい。わかりました」

 女の子達は、納得して帰っていきました。女の子達と子猫のことが気になりましたが、診療時間中なので見に行くわけにはいきません。

 1時間ほど経ちました。また4人の女の子達が、病院の前で相談しています。さっきの子達が戻って来たのかと思い声をかけました。

「どうしたの?」

「公園に猫が捨ててあったんです…」

 良く見ると、さっきの子達とは違う女の子達です。ダンボールの蓋には子供の字で『かわいそうなすてねこです。だれかかえるひとひろってあげてください』と、書いてありました。

 とても迷いましたが、さっきと同じ事を言い女の子達を帰しました。

 診療時間が終わり、夜こっそりと公園を見に行きました。もしまだいたらつれて帰って里親を探すつもりでした。

公園中を捜しましたが、ダンボール箱はどこにもありませんでした。きっと誰か良い人に拾われたのだと思うしかありません…。

 

1999-05-30

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