伝えるということ おはようございます。 協力隊員としてラオスに行っていた時のことです。 最近日本では抗菌グッズが大流行ですが、実際には目に見えない汚れを消毒するということを伝えるのはとても大変なことでした。 私が働いていた職場にはほとんど器具がなかったのですが、熱湯で器具を消毒する機械だけはありました。ところが職場の人たちはせっかく消毒した器具を素手で掴んでいたのです。 当時のラオスでは、それくらいならまだ良い方でした。 ある日、郊外に牛の予防注射に行った時の事です。その村の獣医という人が肩に下げた袋から消毒もしていない汚い注射器を取り出し、何度も押したり引いたりしていました。 「何をしているんだ」と聞くと、バイ菌を追い出していると言うのです。 さすがにラオ人の同僚たちも、それでは綺麗にならないのでお茶で洗うように指示しました。 お茶で洗うのもどうかと思いますが、電気も水道もない村で消毒薬さえない状況では最善の方法だったのかもしれません。 職場では一応アルコールで消毒していたので安心していたのですが、ある日そのアルコールが消毒用のエチルアルコールではなく、日本では実験の時にしか使わない、毒性があるメチルアルコールである事に気づきました。 現地の職員はアルコールならば何でも同じと思っていたのです。メチルアルコールには毒性があるということを指摘すると、アルコール消毒することさえやめてしまいました。 「このアルコールはいけない、違うアルコールにしよう」と言っても。職場の人たちは「ボーペンニャン」としか言いません。「ボーペンニャン」と言うのはラオ人の口癖。「問題ないさ」とか、「どうにかなるさ」と言う意味なのです。 普段あまり怒らない私ですが、さすがに怒りました。 でも、その怒りはまったく無意味でした。次の日職場に行くと「昨日何で怒っていたんだ」などとからかわれるだけで、どうして私が怒っていたのかまったく分かってくれませんでした。 しかたなく自分で町の薬屋に買いに行っても、店のショーウィンドーにはラベルにドクロマークが付いたメチルアルコールしか並んでいませんでした。 エチルアルコールはないかと聞くと、店の置くからホコリだらけのビンを出してきました。 ただダメだと言って怒るだけでは何も伝わらなかったのです。実際にエチルアルコールが手に入ることを示し、職場の人ひとりひとりにメチルアルコールとの違いを説明することでやっと分かってもらえました。 結局、メチルアルコールをエチルアルコールに変えるまで3ヶ月くらいかかってしまいました。 それ以来、私は何があっても人に対して怒ることはしないように気をつけています。 どんなに正しいことを言っても怒った瞬間相手には怒ったという事実しか残らず、本当に伝えたい事は伝わらないのかもしれないと思うからです。 人に何かを伝えるためには、時間を惜しんではいけないようです。 |
2006-02-17