初 恋 「今日こそ彼女に打ち明けよう。今度の日曜日に映画に誘うんだ」 そう決心したのは、中学1年生の1学期が終わる頃でした。 彼女は小学校からの同級生。友達の多い明るい子でした。 学校帰りの彼女の後を追いました。彼女は一人ではなく友達と一緒でした。一人になるのを待つしかありません。 彼女たちは徒歩、私は自転車通学だったので、そのままでは追い越してしまいます。誰が見ているわけでもないのに自転車のチェーンが外れたふりをしたり、自転車がパンクしたふりをしたりしながら自転車を押して歩きました。 雨が降ってきました。彼女たちは傘を取り出しましたが、私は自転車を押しているので傘がさせません。ずぶ濡れになりながら歩きました。 彼女の家の少し手前でやっと彼女ひとりになりました。今しかありません。私は勇気を振り絞って言いました。 「今度の日曜日。一緒に映画に行きませんか?」 「ごめんなさい。その日は用事があるの」 その瞬間私の初恋は終わりました。 ひょっとすると本当に都合が悪くて断られたのかもしれませんが、私の心の中では終わったのです。その後、彼女とは普通の友達として接しました。 20代の終わりの年、私はすでに結婚し東京に住んでいました。 友人から彼女のうわさを聞きました。彼女は何年か前に癌の手術をしており、それが再発して東京にホスピスに入院しているというのです。 さっそく友人と彼女のお見舞いに行く事にしました。 何年ぶりかに会った彼女は、やつれて痩せていましたが、相変わらずきれいでした。 その1週間後、彼女は亡くなりました。 お見舞いに行った次の日から面会謝絶になったのだそうです。 お葬式は東京の教会で行われ、新潟からも大勢の友人が駆けつけました。49日は彼女の希望で、東京のライブハウスを借り切って行われました。プロのブルースギターリストになった中学の友人が来て、演奏してくれました。 彼女もそのバンドのファンだったので、きっとその場に来ていたと思います。 ついこの前、中学の同級生が集まったときに彼女の話になりました。彼女と親しかった友人がお見舞いに行ったとき、彼女はこんなことを言っていたのだそうです。 「私はこんな病気になって本当に痛くてつらいけど、絶対自殺はしないよ。自殺をするには二つの理由があると思う。ひとつ目は今日という日が堪えられないほどつらいとき、そしてもうひとつは明日という日に希望が持てない時だと思う。私は自殺しない。明日に希望があるから。今日のこの痛みが、明日は少しだけでも軽くなっているかもしれないって思えるから・・・」 |
2006-01-13