アルバイトうら話 おはようございます。 学生時代、春休みになると東京の友達のアパートに居候してアルバイトをしていました。色々なアルバイトをしましたが、一番よくやっていたのは引越しの仕事でした。 引越しの見積書には、荷物は全部箱詰めしてあるかとか、手伝ってくれる人の人数とかが書いてあるのですが、現場に行ってみると違っていたことがよくあります。 まったく箱詰めが終わっておらず、結局箱詰めからやることになったり、手伝ってくれるはずの人がいなかったりするのです。 現場で文句を言っても仕事は進みません。とにかく何とか運ぶしかありません。 「アルバイトですから…」なんて逃げ口上は通用しません。相手がプロとしてみてくれている以上、こちらも意地になって期待に応えたくなります。 荷物を持つのにはコツもありますが、最後には力ではなく意地で持つのです。 ある日、4・5人で行く引越しの仕事がありました。顧客の住所は一等地にある高級マンションでした。 部屋に入って驚きました。荷造りはしてあるはずだったのですが、まったく箱詰めされていなかったのです。小さな子供達2人が走り回って遊んでおり、それをお手伝いさんらしき人があやしていました。とても今から引越しをする家とは思えませんでした。 「すみません。主人も私も仕事で忙しくて…」 奥さんにいくら謝られても仕事は進みません。一緒に行った元役者のAさんや、引越しのプロフェッショナルNさんの顔もピリピリしていました。 「時間がないから、荷物は適当に詰めてください。洋服もたたまなくて良いですから」 「本当にいいんですね」 元時代劇俳優Aさんは、ドスのきいた低音でそう言うと、おもむろに荷物の箱詰めを始めました。タンスの中には高そうな洋服がずらっと並んでいましたが、お構いなしに詰め込んでいます。 掃除もあまりしないらしく、家具を動かすと、子供の食べ残しが腐っていました。 大幅に予定が狂い、引越し先の大きな一軒家に着いた時には夕方になっていました。それから荷物を運んだのですから、終わってみると日もとっぷり暮れていました。全員ぐったり疲れて帰途につきました。 その翌日は1人で行く引越しの仕事でした。顧客の住所は前日と打って変わって、ゴミゴミと小さな家やアパートの並ぶ下町です。その一角に建つ小さなアパートの一室に入って驚きました。六畳二間とキッチンだけの部屋に、夫婦と中学校くらいの双子を頭に5人の子供が住んでいたのです。 皆今より大きな部屋に移れるのが嬉しいらしく、ニコニコ笑いながらどんどん荷物を運んでくれました。引越し先は、今より一間多いだけのマンションでしたが、あっという間に引越しが終わってしまいました。 清算が終わって帰ろうとすると、「ちょっと待って」 とお父さんに呼び止められました。「これ持ってって」 渡された袋の中にはアンパンが5・6個入っていました。 |
2006-02-10